奄美ネコ問題ネットワーク (ACN)での活動のご報告です。
奄美ネコ問題ネットワークとは、奄美大島の自然保護団体「NPO法人奄美野鳥の会」と「奄美哺乳類研究会」、そして当団体「一般社団法人奄美猫部」の主に3団体が中心となって活動しています。代表して、奄美猫部のHPでご報告させていただいています。
今年度より新たなアプローチとして、奄美市環境対策課と大熊町内会のご協力のもと、将来的に、地域の外ネコゼロを目指す「ネコ管理モデル地区計画」に取り組んでいます。
まず5月に、最初の生息数調査を行い、その結果をもとに6月以降、奄美市環境対策課にTNR(※)を行っていただきました。
詳しくは以下の関連記事をご覧ください。
(※)TNR:ノラネコの不妊化作業。
捕獲(T)し、不妊手術(N)を行い、元の場所に戻す(R)の一連の作業のこと。
そして、今年度の取り組みの成果と事後調査の報告会を2019年12月17日に行いました。
報告会の様子①
調査に参加してくれた子供たちも、発表のお手伝いをしてくれたり、貴重な感想を聞かせてくれました。
報告会の様子②
調査報告はもちろん、ACNや奄美市環境対策課から、ネコの適正飼育の方法や条例の説明、そしてこれからの自然環境保全と人とネコとの関わり方がどうのように関係しているか、など詳しく丁寧にお話させていただきました。
以下、5月の調査からの推移と事後調査2019年11月時点の大熊町内(旧集落)の外ネコの生息状況です。
<5月事前調査時>
確認総数:25頭(ノラネコ20、飼いネコ5)
ノラネコ20頭内訳
不妊化(耳カット):11頭(不妊化率55%)
未不妊化:7頭
不妊化不明:2頭
・6月~11月までのTNR頭数:8頭(調査時目撃個体以外も含む)
↓
<11月事後調査結果>
確認総数:37頭(ノラネコ32、飼いネコ5)
ノラネコ32頭内訳
不妊化(耳カット):28頭(不妊化率87%)
未不妊化 : 3頭
不妊化不明 : 1頭
(お詫び:カウントミスで新聞の数値と若干変わっています)
5月の調査から10頭近く確認総数は増えましたが、これは調査回数を重ねていくたびに精度が上がっていくためです。一回の調査ですべてのネコを確認するのはほぼ不可能で、通常専門的な調査では同じエリアを5回は調査し個体識別を行うそうです。今回の大熊の調査は、事前・事後ともに2回ずつ個体識別調査をし、頭数確認を行いました。調査がいかに難しいかを表していると思います。
この難しい調査を、大勢の協力を得て実現できたことは、本当に素晴らしいことだと思います。
さて、不妊化の実績はというと、
TNRの効果を出すには、75〜92%の不妊化率を維持する必要があると言われています。
2019年11月時点で、87%の不妊化率を達成しました。
ただ、現時点で達成してはいるものの、他のエリアからの移入や不妊化できていないノラネコや飼いネコからの繁殖で、あっという間にまた増えてしまう可能性もあります。その増減をモニタリングすることがこれから重要になってきます。
次の目標は、モニタリング=調査とTNRを継続していくこと、そして同時進行で不妊化率を維持、もしくは100%に近づけること、です。
数年後に良い結果につながることを信じて、来年度もさらに多くの皆さまのご協力・応援がいただけましたら幸いです。
調査に参加していただいた町内会の皆さんからも、次々に感慨深い感想を聞かせていただきました。
「今までは関心がなかったが、外でネコを見かけると、耳カットしているかどうか気になってしまうようになった(笑)」「みんなが協力することで減らしていけるのではないか」「見かけないのでそんなに心配したことはなかったけど、やっぱりこれだけいたんだと実感した」など。
大熊町は500世帯以上、人口1000人を超える結構大きな集落です。
ネコが好きな方もいれば苦手な方もいるし、糞尿に困っている方もいます。
どんな立場の方も、調査に参加することでネコ問題を身近に考えることができ、自分たちにできることは何だろうと多くの方が考えていただけるきっかけになったように感じます。
報告会でも触れましたが、実は報告会直前に不妊化済(耳カット)のノラネコ2頭が、おそらく交通事故であろう遺体で見つかりました。
ですので総数は35頭に減りましたが、なによりネコにとっても、外で過ごすことは危険を伴うし過酷な環境だとはっきり分かる事例であったかと思います。
山中で暮らすネコ=ノネコが希少種を捕食してしまうという問題がクローズアップされがちですが、住宅地にいるノラネコこそが私たち奄美猫部が一番直面している問題です。
先ほどの事例のように交通事故で亡くなるノラネコはいまだにほぼ毎日いるでしょうし、病気や怪我で衰弱しているノラネコも山ほど目撃します。そして、糞尿トラブルの相談や子猫が産まれているという相談も後を立ちません。山中で希少種を捕食しているノネコ以上に多くのノラネコが、過酷な環境で生きている事こそが、一番の問題なのではないかと思っています。これは、ノネコの発生源がノラネコである問題も同時に存在しています(不妊化されていない飼いネコも含みますが)。
ネコにとっても外で暮らすことは決して幸せではないと、奄美猫部はずっと訴え続けています。希少種捕食の問題も、ネコにとっての幸せを考えても、やはり人間とともに家の中で暮らすこと、それだけで解決する問題なのだと思います。
ですが、これまで長い間増やし続けてきてしまったこと、外にいるほうが幸せなのではないかという考え方も根強く残っていることも絡んでしまって、とても複雑になっています。 奄美で起っているネコ問題に、実際に直面している私たちは、この現実を受け止めざるを得ません。受け止めた上で、じゃこれから何をしていけば良いのかということを、ずっと考え続けています。
まずは、多くの方が現実を受け止めることから始まるのではないかと思います。
ネコは、俊敏でしなやかな体を持ち柔らかい体毛とクリリとした大きな目、魅力的な泣き声とツンデレな性格・・、といったように魅力に事欠かない素晴らしい動物です。ですが、その素晴らしいネコを外に放つことで悪者にしてしまっているのは、実は私たち人間であって、変えることができるのもまた人間です。外で動かない分、家の中で動いてもらう工夫を私たち人間がすればいいだけのことです。ですがこれも、すぐには簡単に変えられないという現実で、解決には時間がかかることも受け止めなければならないのが辛いところです。
ノネコの問題がクローズアップされることで初めて、ネコと人間との関わり方を考え直す時期が今やっときたんだと思います。今までどれほどのネコが産まれては犠牲になってきたのかを想像すると、本当にいたたまれません。これからは、どのような環境で生きることがネコにとって幸せなのかを現実的に考えられる時代になってくれることを願いながら、これからも活動を続けていくことと思います。
また来年度、この大熊町の外ネコ調査についての新たなご報告ができれば幸いです。
以下、地元新聞社にも取り上げていただいた記事です。よろしければご覧ください。
南海日日新聞
奄美新聞